FC2ブログ

アルジャーノンに花束と愛を。

スポンサーサイト

--/--/-- --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Top ▲

02ジャンクフード店にて

2010/12/01 17:21

 念願という言葉がある。念じながら願うと書くが、この前彼が授業の論文作成に辞書を引いたら念ずるとは強く願うこと、と記載してあった。つまり念願とはかなり強く願うことだと彼はそのとき曖昧に学習した。

「はい!念願のポテトだよ~」

 ドン。と目の前にLサイズのフライドポテトが置かれると、彼の食欲が急激に下がっていくのが分かった。胸のあたりに不快感を覚えながら、同じトレーの上に乗っているドリンクに手を伸ばす。
 お昼時の騒がしい店内の隅、二人用の狭いテーブル席を陣取り、彼は悠が会計を終え食事を持ってくるのを待っていた。当初とは話が違い、会計する寸前になり悠がご馳走するから。と彼に財布を仕舞わせた。

(今日の市ノ瀬なんか変だな)

 先ほどから違和感が拭えない。
 席について即ハンバーガーを口にする悠をじっくり見やる。外見はいつもと変わらず、人目を気にせず大口を開けてハンバーガーを食べている。もぐもぐと、幸せそうに顎を動かす姿はいつもの陽気な市ノ瀬悠だ。
 女性の食べる速度の平均を遥かに上回り、素早く食べ終えた悠はまだドリンクしか手を付けていない彼に問うた。

「食べないの?」

「あー……そういや、朝ご飯食べたのついさっきだったんだよね。いいよ俺の分も食べて」

「えー。金出す前に言ってよ~そういうの。まぁいいか、ポテトだけは食べてよね。いただきまーす」

 言うより早く、悠は彼の分のハンバーガーまで手を付け食べ始める。彼もつられてポテトを口に入れたが―――やはり空腹ではないため念願とは違った。

「彼女できた?」

 ハンバーガーを口に運びつつ、もう一方の片手で器用に携帯電話を弄くりながら悠は彼に尋ねた。彼にとっては唐突で、そして心が抉られるようなそんな質問。
 視線が携帯電話に夢中のため、せっかく形の良い唇が油まみれになっている。その唇に気を取られつつ―――もちろん、悪い意味で―――彼は皮肉まじりに彼女に答えた。

「出来てないよ。何?彼女って作るものなの?木材とかで?」

「……粘土の方がいいんじゃない」

「よーし。ホームセンター行くかー頑張っちゃうぞー」

 半ばやけくそ気味に言い放ちながら両手を天井に向けて伸びをする。数秒間そのポーズで止まっていたが、彼はため息と同時に項垂れた。
 二つ目のハンバーガーを食べるのも携帯電話を弄くるのも止めて、一連の動作を見終わってから、悠は眉根に皺を寄せて毒づいた。

「はいはい。拗ねないの。あんたが彼女いない歴爆裂更新中なのは分かったから」

「もう聞くな。彼女が出来たら……いや、素敵な女性とお付き合いをしたら俺から言うから」

「どんなんが好きなのよ?あん?」

 身を乗り出し、そして心なしか顎を突き出しながら悠は尋ねた。色素の薄い髪がさらりと揺れる。
 が、彼の視線は悠の胸元に一瞬奪われた。形のいい乳房が、テーブルの上に乗っかって押しつぶされている。いつも悠は胸元がぴったりしたガードの堅い服を好むので、なかなかお目にかかることのできない……

(……谷間)

 一瞥してから、彼は視線を泳がせつつ答える。

「……女の子らしくって、可愛らしい子。絶対これだけは譲れないっ」

「あら。あたし達趣味合うねぇ!やっぱ守ってあげたくなるような女の子らしい方がいいよねぇ!」

 ストラップなどの飾り気がまったくない携帯電話を弄るのを再開して、悠は嬉しそうに続けた。

「あ、あたしの新しい彼女見る?」

「……………………………まじでか」

 と、匙でも投げるように手をひらひらと回す。指をそのままこめかみに当てて、彼は痛々しげに嘆息した。

「市ノ瀬に走る女の子が少しでもこっちに流れれば、俺にも彼女ができるのに」

「何言ってんの。女に走らなくても、あんたに走るとは限らないでしょ―――あ、あった。これこれこの子」

「ふむ。どれ?」

 悠は携帯電話の画面を彼に向けた。彼はゆったりした口調とは正反対に、身を乗り出して目を見開いて凝視する。

「……………可愛い」

 画面の中には、まだあどけなさが残る、少女と女性の中間を彷徨っているような女の子が写っていた。潤んだ大きな瞳に透き通った白い肌。長い髪は二つに束ねられており、画面だけ見ても柔らかそうと印象を持つ髪質。先ほど悠が言っていた、守ってあげたくなるような女の子、という言葉がぴったりな女の子だった。
 胸にぽっかりと穴が開いたようだった。極めつけは、画面の中の彼女は抱きしめたら折れてしまいそうな、細い体をセーラー服が纏っていることだ。二度程その事実を確認して少し涙が出そうだったが、―――もちろん羨ましくてだ―――プライドだけで敗者の涙を流すのを踏みとどまって顔の筋肉に力を入れる。
 そんな彼の様子を見て意地悪くニヤニヤとする悠は、そそくさと携帯電話を彼の視線から外して懐に入れた。

「可愛いでしょ~?付き合って3カ月くらいなんだけどね」

「可愛い、めっちゃ可愛い。そして悔しい。かなり俺好みだわぁ……うらやまけしからんわぁ……って……セーラー服なんて着ちゃっているけど、コスプレ?」

「いや、現役」

 ぶっ。
 きっぱりと言い切る悠に吹き出して―――彼は口元を拭った。

「内臓出てない?」

「出てない、出てない」

「現役女子高生なんて犯罪ですよ市ノ瀬被告」

「いえいえ18歳ですから~相思相愛ですから~」

 へらへらと舌を出し、悠が曖昧な否定する。からかうような口調の彼女を尻目に彼は毒づいた。

「ったく。なんだよ。久々の市ノ瀬からの飯の誘いかと思ったら、ただの惚気たかっただけね」

「えへへ~」

 口元に両手をあててわざとらしくいやいやと肩を振りながら、目尻が完全に垂れ下がった悠の嬉しそうな顔を見て彼は嘆息をした。自分の好みの女の子が女性と付き合っていようが、一番魅力を感じた女性が少女と付き合っていようが、本人たちが幸せならそれでいいか。という半ば諦めにも似た嘆息。
 吐き出した息を取り戻すように大きく息を吸って、彼は続けた。

「良かったな、幸せなんだろ?」

「あーうん。まぁ、ね……けど……」

 と。
 いきなり悠の歯切れが悪くなったのを見て、彼は怪訝に眉根を寄せた。
 そこから、しばらく続いていた会話が止まった。彼女もバツが悪そうに彼をちらちら見ていただけで、何かを話そうとするわけではない。彼自身も、問うか迷った。

(あれ?俺まずいこと聞いちゃった?……あんま彼女さんとうまくいってないのか?)

 沈黙に耐えきれず、彼は早々に冷めたポテトに手を伸ばす。3本目に差し掛かったところで、悠は重たそうに口を開いた。

「あのさー……なんて言うか……ミサヲって―――あ、彼女の名前ミサヲって言うんだけどね、変に好奇心旺盛でねー……」

 そして、また沈黙。言葉を選んでいるのか視線が空中を彷徨っている。何やら不穏な空気に慌て、一拍置いて彼が相槌を打った。

「あ、ああ」

「まぁね、好奇心があるってのは、素晴らしいと思うの。ほら、トーマスエジソンだって、小さい頃は好奇心旺盛でなぜなに坊やなんて呼ばれていたみたいだし!?うん。だから、まぁ向ける情熱の先が間違っているっていうか、いや、間違っちゃいない!間違っちゃないだけど―――」

「ちょ、ごめんストップ」

 悠の言葉を遮って、彼はトレーの上の乗っているドリンクを飲むように促した。彼の目からみて、悠が動揺しているのは明らかだったからだ。
 彼に勧められるままに、ストローに口を付け、喉を鳴らす。そこまで見届けてから、彼は思ったままの言葉を紡いだ。

「ごめん、何が言いたいのか分からない」

「うん。ごめん……まぁ何が言いたいのかっていうと……」

 少し間を開けて、覚悟を決めたようだ。彼女が言い切る。

「ミサヲ、男の人とエッチしてみたいんだって。その役頼めないかな」

 ぶっっ―――
 本日二度目。先ほどより盛大に吹き出して、そのあと彼は少し咳き込んだ。

「げほ―――肋骨出てない?大丈夫、俺?」

「出てないから」

 悠が微かに微笑みながら事実を告げる。彼の心情を察してか、申し訳なさそうに、けれども少し悲しそうに、悠は続けた。

「まぁ元々好奇心が強い子でね……あたしも色々と要求には答えていたんだけど、本当こればっかりはしてあげられないからさ」

「い、い、色々って?」

「んー先週は電車の中で痴漢ごっこみたいなのしてその後、駅のトイレの中で―――」

「ごめん、やっぱ言わなくていいわ」

 彼は悠の言葉を遮って、頭を抱え込む。傍から見れば、頭が痛いという振りだが真実は違った。
 悠の口から初めて出た性的な話題に、少し股間が反応したからだ。

(落ち着け、落ち着け俺ぇぇぇ)

 自分の心臓の音が、鐘を鳴らす様に脳まで響いている感覚に溺れる。もしかしたらこの動悸が悠の耳に届いているのかもしれない……が、せめてもの動揺を知られないように彼はあくまで平常心を装っていた。 
 悠をちらりと見やると、申し訳なさそうに眉を下げている。そんな彼女を尻目に、携帯の画面に写る美少女を思い出して、音を立てて唾を飲み込んだ。一瞬の妄想が、彼の欲望を掻きたてる。
 だがしかし、もう一人の理性ある彼自身が、間髪入れずにひょっこりと顔を出した。

(……もしやっちゃって、市ノ瀬と気まずくなったら嫌だな)

 急に見えた現実に、独りごちる。
 彼にとって、悠は絶対失いたくない友人だった。自他共に認められるがはっきり言って彼は友達が少ない。友人の多い彼女とは正反対で、一人でいることの多い彼にいつも気さくに話しかけてくれて、誘ってくれた。正直その存在に彼は救われていたのだった。更に正直にいうならば、最初は好意があった。過去とはいえ自分の気持ちを無下にすることになるのでは無いか?
 後ろ髪引かれる思いもあった。が、彼は正直に事実を告げた。

「でも、市ノ瀬嫌だろ?自分の彼女が―――ましてや男と……やるなんて、さ?」

「んーいい気持ちはしないけど、男を知らないままが嫌だって言うなら……まぁ気持ちも分かるし。あたしも一回だけ、その、あるしさ」

 最後の方は言いたくなかったのか、だんだんと声小さくなってく。その言葉を聞いて、軽く反省しながら彼は続けた。

「あーごめん。嫌な事言わせたかも。でもさ、俺じゃなくても良くないか?市ノ瀬のサークルで適当にさ、後腐れのなさそうな顔が良い奴見繕って、そいつに頼めばいいじゃん。ミサヲちゃんだって、俺なんかより、かっこいい奴の方がいいだろうし」

「あたしはあんたにしかカミングアウトしてないんだよ?」

「……そうだったの?」

「あんただから、教えてあげてもいいような気持ちになったの。あたしがレズじゃなかったら、あんたにきっと惚れてたよ」

初めて知った事実に、彼の顔が思わず緩んだ。その隙を見逃さず悠は追い打ちをかける。

「ね?お願い。うちら親友じゃん。だからあんた以外じゃ嫌なんだよ」

「こんなときだけ親友って……でもさ、気まずくなるのは……」

「絶対大丈夫。あたしがあんたを避けるわけないもん!ね?」

 ぐい。と身を乗り出して、悠が必死に説得する。彼の目の前が悠の顔でいっぱいになるのと同時に、視界の隅に先ほど見えた谷間が入ってきた。テーブルに押されて潰され、形を変えている乳房は、全貌が見えないからこそとても柔らかそうで……
 ひょっこりと顔を出した理性ある彼は、そそくさと隠れてしまったようだ。

「……しょうがねぇなぁ」

 彼はにやける顔を抑えられずに、了承したのだった。ニヤリ―――と口元を三日月にして悠が笑ったのを見逃しながら。
Top ▲

Copyright (c) アルジャーノンに花束と愛を。 All Rights Reserved.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。