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アルジャーノンに花束と愛を。

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01大学の教室にて

2010/12/01 18:30

「ねー起きてよ~」

 声を脳内で反芻してから、その声が自分に向けられていると分かるまで数秒かかった。眠りに落ちる寸前と言っていいほど彼の意識は遠く、更に顔をあげるまでに数秒を要す…たっぷり時間をかけてから、彼は机のから重たい頭を上げて自分を眠りの淵から呼び起こした声の主を確認する。
 声の主であろう市ノ瀬悠の笑い顔が至近距離から彼を見つめている。

「…………起きてます」

 彼は不機嫌そうに呟いた。黒髪を適当に伸ばした、よく見ると無精ひげも生えている一見してだらしのない男である。履き古したジーパンに、部屋着だと疑われても仕方のないTシャツという薄着が、身体の線の細さを際立てる。
 奥二重の細い目を更に細めて彼女を恨めし気に見つめる。
悠は彼の言葉を聞いてから顔を離してにっこりと笑うと、彼の身体を押して―――もっと詰めて座らせて。というボディランゲージだ―――彼の横に無理矢理座った。
 大学の講義が終わったばかりの教室に彼らはいた。
授業の終わりを告げると同時に、生徒達はそそくさと教室を後にしたようだ。先ほどまでぎゅうぎゅうに人がいた教室も数えられる程の人数しかいない。寂しい教室を見渡すと彼は窓の近くに掛けられている古めの時計で時刻を確認した。

(……そういえばもうお昼時か)

 時計を見たついでに窓の外を見やると日差しが厳しい。教室内はクーラーが効いているから汗はかかないものの、先ほどまで大人数いたせいか空気が少し淀んでいた。

「…寝ぼけてます?」

 と。
 隣にいる悠が彼が視線を向けた反対側の方向から、にょきっと肩に顔を乗せてきた。
 悠の甘い香水の匂いが彼の鼻孔をくすぐってから、彼はハッと悠に向き合った。

「おおお。なんだよ、びびったぁ」

「あたしがいるの忘れてたでしょ」

「あー……あーわり。寝ぼけてたわぁ…」

 彼は額を掻きながら、やっと眠りから覚めて感覚を取り戻していく。脳を覚醒させながら続けた。

「昨日寝たの遅かったんだよね」

「まぁた夜更かしですか。ネトゲか?ネトゲなのか!?キミがあの社会問題の象徴なのか?」

 何やら迫真じみた演技で詰め寄る悠をうっとおしそうにあしらう。そんな彼の様子を見て、意地悪くニヤリと笑ってから悠はいつもの調子でまくしたてる。

「今日はお昼おごってくれる約束でしょ?学食にする?それとも外行く?ん~外でもいいけど、あたし3時からサークルの集まりあるんだよね~それまでに間に合うならいいんだけど」

「そんな約束したっけ?」

 半眼で呻いてから、彼は少し考えて提案した。

「俺先月からずーっとジャンクフード……ってかフライドポテトが食いたかったんだよね」

「そんな恋焦がれるものか?そんな貧乏には見えないけど…あ、ネトゲか?ネトゲの課金か!?君が夕方のワイドショーでモザイクが掛っていた『実録!ネトゲにハマる若者達』なのか!??」

 言いながらケラケラと楽しそうに笑う悠に、ついつられて口の端を上げてしまう。

「食べる機会がなかったんだよ。機会が」

「じゃあ、外に食べ行こう!そっちの方が都合いいし!」

「はいよ~」

 彼が返事するより早く、悠は飛び上がるような勢いで椅子から立ち上がった。一目みて機嫌が良いのが分かる最上級の笑顔で、鼻歌を歌いながら教室の出口に向かう。機嫌がいい悠の背中をみながら、彼はふと疑問を感じた。

(都合って何の都合だ?)

 彼は口には出さず、悠とは対照的にゆっくりとした動作で立ち上がり彼女の後に着いて行った。
 

 
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