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アルジャーノンに花束と愛を。

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06大学にて

2010/12/01 12:14

(……さすがに調子に乗りすぎた)

 肩を落として、彼は大学のベンチに座り反省していた。風も無い上に日差しが厳しいため、一滴汗が流れ落ちる。それがアスファルトを滲ませるのを見ながら、嘆息する。
 彼の中の歴史に残るような大イベントから一夜明けた次の日。のぼせていた思考を冷静にさせるには十分な時間だった。簡潔にいうと彼は罪悪感でいっぱいだった。

(いくら悦んでいたとはいえ、あんなでしゃばった真似をしてしまったとは……どんな顔をして市ノ瀬とこれから接したらいいんだ……!!)

 そそくさと帰った悠の後ろ姿を思い出して、自己嫌悪で押し潰されそうになる。
 とどめは……

(やっぱ中出しはやばいって俺ぇぇ!!)

 さすがに頭を抱えて、自分自身に絶望する。だらだらと汗を流し―――それが暑さのせいなのか、冷や汗なのかは彼には検討もつかなかったが―――地面を見ていた。
エアコンの効いた室内、それかもう少し涼しい場所に移ることを考えたが、悠に会ったらどんな顔をしていいのか分からなかった。だから彼は日差しの強い、人が避けそうな場所でただひたすら反省している。
自己嫌悪と戦ってもうそろそろ一時間経とうとしていた頃、汗が滲んだアスファルトに影が見えた。

「おにーさんっ!」

 聞き慣れた声に、彼は勢いよく身をびくつかせた。
 顔をあげると彼の目の前に悠が立っていた。ただでさえ身長が高いのに、見下される形で対峙すると威圧感が増す―――彼の思い違いだ。いつも通りの優しい笑顔に、陽に反射して光る髪。昨日起ったことが夢だったのかと錯覚する程、普段の市ノ瀬悠だった。

「お、おう」

「昨日はおつかれ!」

 夢じゃなかった。希望を打ち砕かれて、彼が身を小さくする。

「……隣座っていい?」

「お、おお」

 ぎこちない返事をして、少し横にずれる。どかっと男らしく座ってから、手をうちわのようにして扇いだ。

「暑いな~!どこ探してもいないから、学校来てないのかと思ったよ~」

 彼が時間をかけて悩んでいた、どんな顔して会うのか。という心配事を吹き飛ばすいつも通りの悠だ。彼女の対応を見て、彼は胸をなで下ろす。が、安心したのもつかの間、彼が一番恐れていた話題が出てきた。

「昨日はうちのミサヲちゃんいじめてくれてありがとうね」

「うっ……」

「もー、乱暴に扱うもんだから、あたしハラハラしちゃったよ~」

「あ、はい。もぅその件に関しましては、本当にこちらが全面的に悪いといいますか……」

「ミサヲも、男の人ってこわいって言ってるし?変なトラウマついたらどうしようかと」

「……………………」

 しばし沈黙。しかし今にも口から泡を吐きそうな彼の青ざめた顔を見て、悠は思わず吹き出した。

「あはははっ!嘘だよ、うーそ!何、今の顔!あっははは!」

「……なっなんだそれ!!」

 思わず顔を赤くさせて、彼が憤慨する。笑いすぎて涙目になったのか、悠が目元を拭っている。その姿を見て実は安心した方が大きかったのだが、顔には出さずに毒づいた。

「あーもー!すっごい心配したんだぞ?それなのにからかうなよ」

「いや、ごめんごめん。ミサヲも喜んでたよ。あ、ありがとうございます。だって」

 悠の言葉を聞いて心の底から安堵の息をつく。昨日から続く緊張の糸がぷつりと切れて、疲れがどっとくるのが分かった。ぐったりしている彼に柔和な眼差しを向けながら、悠は感傷的な言葉を紡いだ。

「ミサヲ、気持ちよかったって」

「あ、そうデスカ……そりゃ良かった」

「思わず聞いちゃった。道具とかよりも良かった?って。そしたら、うん。って」

 なんとなく、居心地の悪い話になってきたのを感じて彼は身構える。

(市ノ瀬的には、そりゃショックだよな……)

 悠には絶対できない、本物の感触を恋人はいいと言う。その言葉を聞いて、彼は悠の気持ちを察しながら、当たり障りなさそうな言葉を選んだ。

「まぁ、一回くらいはそう感じてもいいんじゃねーの?身体と心は別もんだって言うし」

「それは―――まぁそうかもね。でもあたし一回男とSEXしたことあるけど、痛くて、苦しいだけだったからさー」

紡いだ言葉には似合わない、あっけらかんとした口調で悠は続ける。

「それから、女の子と付き合うようになったんだけどね」

「あー……?そうなんだー」

 何が言いたいのか分からないがとりあえず適当な相槌を打つ。その態度が気に食わなかったのか、ムっとした顔をする。気をむけるように彼の頬を軽くつねり、半眼になりながら悠は続ける。

「ちゃんと、聞いてよ。これでもあたし、ミサヲがあんな感じるなんてショックだったんだよ」

「あぁ……まぁ俺も気持ち良かったよ。ありがとって言っといて」

 そして悠の手を払って、

「まぁこれからも仲良くやりなよ」

 珍しく笑ってみる。彼の笑顔を見て、悠は嬉しそうにため息をついた。

「最後まで聞いてって。実は最初は楽しそうだなーって程度であんたのこと誘ったんだけどさ。あんたとミサヲとエッチしているところを見て……」

(……楽しそうって。まぁ人間バイブみたいなもんか……)

 声に出さずに皮肉を漏らす。ツッコミを入れそうになったが、悠が真面目な顔をしているのを見て、やめてやる。
悠が汗を拭った。そして意を決したように、今までで一番大きな声を出す。

「思わず、あたしも抱かれてみたいと思ったんだよ」

「―――は?」

「あんたに」

 頬を染めて悠は笑った。つられて彼も顔を紅潮させる。心臓が跳ねると同時に、忘れていた暑さが一気に肌に伝う。
 目玉が飛び出しそうになるくらい見開いて、彼は言葉を失った。気にせず、悠は続ける―――彼がミサヲを抱いているとき見せた、女の顔で。

「言ったじゃん。あたしがレズじゃなかったら、あんたに惚れてたって」

 暑い日差しのせいで、悠の顔にも汗が一滴流れた。首を伝い、鎖骨で止まり、彼の視線が思わず胸に向いてしまった。いつも通り胸元は見えない服だ。が、一瞬で昨日の刺激的な柔らかそうな谷間を思い出す。手を伸ばせなかった、美味しそうな胸の突起……。

「コラ。何か言えよ」

 先ほどとは違う強い力をかけられて、またもや頬をつねられる。注視の的から外された顔をあげると、拗ねた顔―――照れ隠しをしているのだろう。そういう女だ―――をした悠が彼の顔を覗き込んでいた。

「あー、もう―――何か言ってよ、お願いだから」

 眉根に皺を寄せて、あんぐりと口を開けてまぬけ面をしている彼に詰め寄る。

「いや、あのさ……」

 現実味を帯びていない悠の言葉に夢心地で彼は答えた。これが夢でも、伝えておきたい言葉があるのだ。

「念願って、こういう場合に使うんだな……」

 呆然とした言葉に、淡く悠が笑った。
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