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アルジャーノンに花束と愛を。

ネガティブオンナとブキヨウオトコ

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ネガティブオンナとブキヨウオトコ

2011/05/11

「……分かっているから……」

その言葉を言った瞬間、彼女は泣きだした。
泣きじゃくる彼女の腕を引っ張ると、少し抵抗された。
一瞬、近寄られたくないのか。と不安になる。
艶のあるあやめ色の髪が、珍しく乱れている。
せったくの綺麗な髪なのにもったいない、なんて心のどこかで思いながらただ見つめるしかできない。
もどかしい。どうにかしたい。
この女は自分を困らせるためにわざと泣いているのではないか。
頬を伝う大きな涙は、人工物ではないか。
この女はなぜ泣いているのだろうか。

わざとらしく―――自己保持のためだ―――ため息を吐くと、目の前の彼女の肩が更に震えた。

違うんだ。

と、言いかけて飲み込む。
場の音は彼女の漏らす嗚咽のみ。
彼女の頬を伝う大粒の涙が増えた気がする。
整った顔をぐちゃぐちゃにして、彼女は葛藤しているのだろうか?
悲しんでいるのであろうか?
怒っているのか?
無言でいて、何も分かるかけではない。
何か言わなくては、と焦る度に口腔内が乾いていく。

飲み込んだ言葉は二度と出てこない気がした。

もう一度だけ彼女の腕を引っ張ると、線の細い体は簡単に崩れた。
地に手をつけて、身体を丸めこみ泣き続ける彼女に、自分の背中に何かが走る。
本能。その何かはきっと本能なのだろう。
けれどもその何かが、彼女を苦しめている。
その誤った趣向はなんとなくだが感じていた。
自己の腕の中で彼女は啼くのだ。
そして気がつくと腕の中にいた彼女は離れている。そして泣くのだ。
それが心地いい。

「‥‥うぅっ。‥‥ひぐっ‥‥」

身体を丸めて泣く彼女の上半身を起こしてやり、自分の身体で包んでやる。
頭に手を置いて、撫でる―――いつもそうすると彼女は笑うからだ。
けれども彼女の嗚咽は止まらなかった。
はっきり言ってお手上げだ。
そのまま彼は固まった。
艶のあるあやめ色の髪。
ふわり、ふわりと彼の鼻孔を撫でる。
風呂上がりのいい匂い。
情事のあとも汚れなき彼女の香り。

(いい香りだ)

声には出さないまま、彼は彼女の香りを堪能した。
柔らかな匂い。
淡く笑う彼女の顔。
その二つを同時に堪能できるのは情事のときだけだ。
不満は感じていない。
不満は感じていない。
けど彼女が泣くと一抹の不安がよぎる。
その度に、こうして抱きしめる。
そしてこの柔らかで、儚い、彼女の匂いを堪能する。
それはとてつもない彼の幸福の時間。
泣いている彼女はとてもそそる。

彼女の涙。
それは彼の欲望を刺激する雫。
透明で、綺麗な雫。
きらきらと頬を伝わる雫。
大粒の雫。
自分が触れたら、汚れてしまいそうな。

彼女の雫。

しばらくして、彼女の嗚咽は止まったようにも思えた。
見計らって、彼は彼女の頭を撫でる。

彼女は顔を見せないまま、小さく呟いた。

「……分かっているから……」

そしてまた―――泣きだす。
嗚咽が、酷くなっていく。
けれども彼は頭を撫でるのをやめなかった。
髪が揺れるたび、香りが鼻孔をくすぐる。

(いい香りだ)

「……ひぐっ……ん、わ、わかってるから……」

彼女が嗚咽交じりに呟く。
彼自身に伝えている言葉なのか。
それとも自分自身に言い聞かせているのか。

「ん……ひっ、うう……わ、分かっている、分かって、いる、から……ひぐっ」

「……うん」

「で、でも……それでもそばにいて欲しいぃ……ん。ひっ……」

「………………………」

そういえば、この間遊びで寝た女と一緒にいるところを見られたか。
彼は嘆息して、彼女の髪に鼻をなすった。
愛おしい。
愛おしい。
何が分かっているのだろうか。

こんなにも彼女を愛しているのに。

彼女はいつも一線を引く。
傷つくのが怖いのか、いつも彼から離れている。
それでも近くにいたくて、手っ取り早い方法で近くにきて。
泣きじゃくる。
自分はこんなに不幸だと。
自分はこんなにも愛されていないと。
そうやって、彼の指の隙間を縫うようにして、すり抜ける。
そうやって、自分から彼を遠ざける。
それでも彼女が愛おしい。

「……っ、ん、そ、そばにいれれば……ひ、うぅ……それで……」

「うん」

彼女は美しくて、いい香り。
彼女の温かさを彼は堪能する。
彼女の香りが彼を安心させる。
彼女の雫が彼を欲情させる。

「……それでいいから……ひぐっ、ん、わ、わかってる……」

「うん」

こんなにも愛しているのに。
言葉にできないのがもどかしい。
伝わってほしいのに、伝わってしまったら恥ずかしい。

このまま溶けてひとつになってしまいたい。
ひとつになったら気持ちがバレてしまいそう。
下半身擦りつけるのは抵抗がないのに。
心を曝け出して擦りあうのがこんなにも恥ずかしい。

人を好きになるのは、難しい。
人に好きと伝えるには、もっと難しい。

(こいつ、何もわかってねぇな)

彼女はとてもいいニオイで、キレイだ。
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